高齢化が進むと公共交通の必要性が高まるって本当ですか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

高齢者は車に乗れないから、高齢化が進むと公共交通の必要性が高まるよね?

今の高齢者は車を使える人も多いので、放っておいても公共交通の利用が増えるとは限りません。

高齢化の進展により公共交通の役割が増大する?

 地方の鉄道や路線バスの主な利用者としては、高校生と高齢者があげられることが多いでしょう。高校生は免許を取得することができませんし、高齢者の特に女性は免許を保有していない方も多いことから、こうした人々の移動手段として公共交通が必要であるという説明も多くなされてきています。加えて、高齢化が進む中で公共交通の役割が増大するということもしばしば言われています。実際、地方部のコミュニティバスに乗ると、利用者として高齢女性の姿が目立つのも事実です。

 では、今後高齢化が進むと、地方の公共交通利用者はどんどん増えていくのでしょうか?

 答えは残念ながら「否」です。下図は年齢階層別の運転免許保有率を表したものです。

図 年齢階層別免許保有率(令和2年末現在 令和3年交通安全白書より作成)

 今では考えられませんが「女に免許は必要ない」と言われていた時代があったため、現在の高齢女性には免許を持たない人も数多くいらっしゃいます。グラフからも75歳以上の女性で免許を持っている人は2割に満たないことがわかります。

 しかし、男女を問わず成人すると運転免許を取得することが当たり前となった世代が高齢者の仲間入りをしつつあります。グラフでも65~69歳の女性の7割が、60~64歳になると女性の8割以上が免許を取得していることがわかります。

 このことから今後の高齢者は男女ともに免許を持ち、自動車を運転することが当たり前となると考えられます。

 一方で、運転免許返納の受け皿として公共交通に期待する意見もあります。実際、下図に示すように運転免許返納の件数は年々増加していますが、母数である高齢者数の増加による結果と考える方が自然で、返納を選ぶ人の割合が大きく増えているとまではいえないでしょう。

図 65歳以上の免許返納件数推移(令和3年版運転免許統計より作成)

 また、自動車についても、運転支援技術の開発が進むことで高齢者でも運転しやすい車両(サポカー)が市場に多く投入されており、「高齢者の自動車離れ」が自然に起きることはあまり期待できないというのが現実でしょう。

車と公共交通を使い分ける発想を

 しかしながら、高齢者が加害者となる交通事故は後を絶ちませんし、運転支援技術がいくら進歩しても加齢による身体機能の衰えをすべてカバーできるわけではありません。地方部の高齢ドライバーの話を聞くと「家の近所はよいが、国道や街中で運転するのは怖い」「長距離の運転はつらくなってきたので控えている」「野良仕事や買い物にやむを得ず運転を続けている」「いずれは免許を返納したいが、返納すると生活が成り立たない」といった消極的な理由で運転を続けている人が少なくないことに気づかされます。

 地方部の公共交通が不便であるため、自由に移動できる自動車から転換することで、時間的にも空間的にも大きく生活が制約されることを嫌って、自動車に乗り続ける高齢者が少なくないと言うことでしょう。

 社会的に見れば、高齢者にはなるべく運転をして欲しくない。高齢者個人から見れば、豊かな生活を維持するためには運転をせざるを得ない。この相反する課題を解決するためには、「運転か、返納か」というall or nothingの考え方でなく、「車と公共交通を使い分ける」発想が必要です。

 つまり、「家の近所は自動車、街中に出かける場合には公共交通」、という風に移動の場面によって自動車と公共交通を使い分けられる環境を整備していくことが重要です。具体的には、駅やバス停にパークアンドライド駐車場を設けることや、高齢者の免許更新の講習時に公共交通の情報提供をするなどの取り組みが考えられます。

 高齢者=免許返納=公共交通利用、といった単純な図式では現実の問題を解決することは困難です。「車と公共交通を使い分ける」ことを前提として、どういう移動なら公共交通に転換してもらえるのか、それを促すためにはどういった施策が必要かを考えてみましょう。