担当:塩士圭介(日本海コンサルタント)
はじめに
以前の記事(公共交通の情報を分かりやすく案内するにはどうしたら良いですか?)では、とかく複雑になりがちなバス路線の案内の考え方について説明しました。たくさんある情報を上手く伝えるには「適材適所」、つまり「必要な情報を」「過不足なく」提供することが大事、と申し上げましたが、やや抽象的な記載だったかも知れません。そこで、ここでは、実際の駅に設置されているバス案内から、良い事例も改善の余地がある事例も含め紹介し、バスののりば案内のポイントを考えてみたいと思います。
なお、事例は筆者個人が撮った色々な写真から、独断で選別しています。また現在の状況が掲載している写真から変化している可能性もありますのでご留意ください。
のりばはどこ?
上の写真は神戸市三宮駅周辺のバス停に貼ってあるバスマップです。なるほど、バス停エリアごとにS,N,M,Y と分けられている訳ですね。複数の交通事業者の案内も1枚に収められています。三宮はたくさんのバス会社が乗り入れ、のりばも分散しているので、このような複数事業者協働での案内表示の取組は評価できます。
さて、方面別ののりば案内が書いてあったので、この中の「M2」のりば(緑色の円で標記されています)に行ってみましょう・・・JR三ノ宮駅の南東側に向かいます。
あれ?このあたりが「M2」のりばのはずなんですが、「M2」のりばと書いた案内サインが見当たりません。そのかわりに、□の2番って書いてあります。しかも、29のりば、101のりばって看板が立っているが、これは何だろう?
→調べて見ると、ここが先ほどの「M2」で間違いないようです。しかし、バスマップに書かれている「M2」のりばという情報があるにも関わらず、バス停の現場に「M2」という表記がなければ利用者は混乱します。右の写真の青看板の下の「2」を、バスマップに合わせて「M2のりば」と表記するだけでも、利用者は迷いにくくなります。ちなみに29、101は、このバスのりばから発車する市バスの系統番号のようです。
別の場所のバス停「Y3」のりばに行ってみました。こちらのバス停では、しっかりのりば番号「Y3」が書いてあります。バス停によって情報案内が統一されていないのが惜しい・・・。
別のバス停には、もう一種類ののりば案内がありました。あれ、最初に示したバスマップのS,N,M,Yののりば番号とはまた違いますね。これは神戸市バスの系統番号ごとの乗り場位置を示した図のようです。主要建物とバス停の位置関係を表した図としては端的で分かりやすいのですが、バスマップと市バス系統番号図の情報内容に連続性がないので、やはり利用者は分かりにくいと感じてしまう可能性があります。
掲出する情報は、複数媒体であっても統一しよう
作成者が複数(自治体、事業者)にまたがっており、かつ情報の連携を取っていない場合に、このような「情報の不統一」が生じます。このような例は全国に多々あります。
- のりば番号及びデザイン(色など)が紙、総合案内板、掲示物、バス停標柱で統一されていない
- 行先表示及び主な経由地の表記が統一されていない
上記の個々の案内図は意図があって作られており、そのこと自体は良いのですが、利用者の動線に合わせて連続的に案内する際は、情報の統一に特に気を付けなければ、逆に混乱を招きかねません。
系統図・路線地図あれこれ
上記は佐賀駅バスターミナルの案内です。(画像が悪くて恐縮ですが)下にあるのは系統別のバス停一覧(停車順)です。情報は網羅されていますが、目的の系統を見つけるのは苦労するかも・・・・(下部にある系統一覧を真面目に見る人いるのかな?)
上記は明石駅前ターミナルのバス総合案内です。正縮尺の地図上にバス路線が書かれていますね。のりば方面ごとに色分けがされており、地図でたどった色のバスのりばを探せば良いので分かりやすいです。左下には、主な行先別ののりば番号が書いてありますが、ただ情報量が多くて文字が小さいのが難点です・・・。
近くに、総合案内図を簡略化した案内図がありました。色使いも先ほどののりば番号と同じです。これぐらいの情報量なら、さきほどの総合案内と組み合わせて、適切なバスに乗れそうですね。
こちらはJR和歌山駅前のバス案内板です。正縮尺の地図をベースとしながら、若干簡略化された系統図となっています。情報量がかなりスッキリとしており、見やすいです。
特筆されるのは、運行頻度の多さを太さで表現していることです。本数の目安が明示されているだけでも、バスに乗る不安感は相当軽減されますね。
こちらは横浜市地下鉄・関内駅の改札前に設置されたバスのりば行先案内。壁の大きさを最大限活用して、乗り場ごとの案内図を掲載しています。筆者が良いと思うポイントは以下の通りです。
- 上段にはのりばごとの主な行先を、大きめのフォントで記載(探しやすい)
- 中段には、主な観光地を写真付きで掲載し、何番の系統に乗るべきかを記載(観光客にとって分かりやすい)
- 下段は、系統図を、正縮尺地図をベースとし見やすくデフォルメして表示(バス停一覧)(途中バス停を利用する市民にとっても分かりやすい)
と、市民向け、観光客向けの双方にとって分かりやすい案内を指向した結果でしょう。
観光客向けの案内・・・ある意味「割り切り?」
こちらは金沢駅前ターミナルのデジタルサイネージです。左側は周遊系統、右側は一般バス路線の案内ですが、「主要観光地別バスのご案内」とあるとおり、観光客が使うであろう系統・場所にターゲットを絞って案内しています。 金沢の場合は新幹線開業で観光客が大幅に増加した結果、このような観光客向けの案内充実の必要にかられ設置されたものです。もっとも、逆に言うと、全ての系統を網羅していないため、観光客以外の一般市民やビジネスユースにおいては、必ずしもニーズにそぐわない場合もあり、観光客にターゲットを絞って情報を厳選した、いわば「割り切り」型ですね。
バス停案内サインを美しく保つための工夫
上記は富山駅バスターミナルのバス停標柱の案内サインです。ガラス面にフィルムで貼り付けているタイプですが、ここで注目は右下です。右下には、臨時運行や一時的なお知らせを貼る欄があり、裏から差し込める形になっております。なぜこのような形かというと、上から張り紙をペタペタ貼ると、あとで剥がした時にシール痕が残るため、これを防ぎバス停看板を美しく保つためと思われます。富山駅ではガラス面があるためこのような仕様となっていますが、ガラス面に限らず、案内板の片隅に、A4サイズの紙を貼れる(または差し込める)スペースを用意しておき、臨時の掲示物を貼れる場所を決めておくと、見た目も美しく保つことが出来ます。
おわりに
利用者向けの案内の世界は非常に奥深く、「誰に」「何を」伝えるか、そして「何を省略するのか」を考える必要があります。その土地のバス路線の顧客がどのような属性か(観光客か市民か)、系統数や目的施設の多さ、設置できる看板の大きさなどに応じてオーダーメイドで考えなければいけないため、非常に難易度が高いと言えるでしょう。
特に駅・ターミナルでの案内には、複数の事業者、自治体が関与する場合が多いので、現場視察やワークショップなどで議論をしながら、「誰に」「何を」伝えるか、という視点で実践していくことが必要です。
皆さんも、知らない土地に行った際は、是非案内サインの分かりやすさにも目を向けて頂き、気づきの機会にしていただければと思います。