買い物支援ってどういう方法がありますか?

担当:村上早紀子(福島大学 准教授)

行政
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買い物支援ってどういう方法がありますか?

天の声
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買い物をするための移動支援と思いがちですが、宅配や移動販売なども選択肢の一つです。これらと移動支援の組み合わせや役割分担を考えましょう。

買い物支援の取り組みにみる問題

 日常生活を送る上で必要不可欠な生活行為の一つが買い物です。しかし近年、地域の買い物環境の脆弱な状況や、買い物を満足にできない人々の増加といった問題がクローズアップされるようになってきました。こうした人々は「買い物弱者」と称され、経済産業省(2015)は「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買物が困難な状況に置かれている人々」と定義しています。買い物弱者はこれまで、農村や山間部に多く存在するといわれていましたが、最近は都市部でも増加しているようです。

 買い物の支援策は、主に次の三点が挙げられます。一つ目は「家まで商品を届ける」仕組みで、宅配サービスなどが挙げられます。事前に商品を注文し、後日、商品を配達してもらうというように、自宅にいながら受け取ることができるといった利便性があります。二つ目は「家の近くに店舗を作る」仕組みで、移動販売などが挙げられます。買い物のできる店舗がない地域に、地元商店や企業が商品を販売しにやって来る例がみられます。三つ目は「家から店舗まで送迎する」仕組みで、買い物のできる店舗まで、自宅または特定地点から送迎するサービスが挙げられます。 

 ただしいずれの支援策にも問題があります。宅配サービスの場合、商品を注文してから自宅に届くまで日数がかかる場合があります。タイムラグにより、例えば魚が食べたくて注文したものの、届く頃には魚ではなく肉が食べたくなっていた、なんてことがあるかもしれません。また宅配サービスは、商品を直接目で確認できないという欠点があります。もしも大根を注文した場合、実際に届いたものが想像と違う長さや太さだった、なんてこともありえます。そのため買い物支援策を考える上では、直接商品を手に取りながら選び購入できる仕組みも検討する必要があると考えます。

地方都市における買い物支援活動の紹介

 そこで今回は、地域の施設を活用した買い物支援の取り組みとして、秋田県内で展開される「お互いさまスーパー」、岩手県北上市口内地区「店っこくちない」をご紹介します。

秋田県「お互いさまスーパー」

 秋田県では、人口減少などの背景から店舗が撤退した中山間地域などにおいて、空き店舗や廃校などの既存施設を活用し店舗経営を行う「お互いさまスーパー」が、自治会など地域の住民が主体となった組織により運営されています。行政からの補助金に頼らない運営を理念として掲げており、開店にあたり必要な店舗改修費や設備購入費などの初期費用に対しては補助金が支給されますが、その後のランニングコストに対しては原則として補助金を支給しないこととしています。

 2020年10月現在、「みせっこあさみない」(五城目町浅見内地域)、「仙道てんぽ」(羽後町仙道地域)、「赤田ふれあいスーパー」(由利本荘市赤田地域)の三店舗が開設されています。

「みせっこあさみない」(2016年3月30日開設)は、地域の浅見内活性化委員会の「スーパー運営部会」により運営されています。築40年以上と老朽化が進行していた旧児童館の一部を改修し開設されました。生鮮食品、飲料品、日用雑貨など約500品目を取り扱っています。また食堂も併設されており、冬期限定の鍋焼きうどんは人気メニューの一つです。さらに、サロン活動も実施されており、社会福祉協議会職員が「みせっこあさみない」を訪問し、住民と一緒に歌を歌い、相談に応じるといった活動が行われるなど地域交流の場としても機能しており、住民から好評を得ているそうです。

 「仙道てんぽ」(2016年3月13日開設)は、株式会社仙道てんぽにより運営されています。酒類、鮮魚、山菜など約1,000品目を取り扱っており、特売品の告知チラシを作成し全戸配布を行うなど販売促進にも務めています。また、重量のある商品の持ち帰りが困難な住民を考慮し、さらには冬期間に自転車が使用できなくなる現状に対処するために、2019年9月より「商品配達サービス」が店舗運営と並行して実施されています。これに加えて、社会福祉協議会の主催による交流サロンの「かっちサロン」が週二回開催されており、住民同士が交流する場として機能しています。

 それぞれ地域の買い物を支援する店舗として機能していますが、仙道地域の場合、冬になると積雪により、店舗への移動手段である自転車を使用できなくなるため、その分来店者数が減少傾向にあり、冬の売上に影響しているようです。店舗を構えることも重要ですが、そこに至る移動手段に関しても次のフェーズとして検証していく必要があると考えます。

写真1 みせっこあさみない
写真2 仙道てんぽ

北上市口内地区「店っこくちない」

 「店っこくちない」は、地域の高齢者の買い物を支援する目的で、JA支店の撤退後の空き店舗を活用し開設されました。運営はNPO法人くちないが務めています。

 NPO法人くちないは2009年に設立されましたが、きっかけは、高齢者の移動が不便な状況にあるといった、地域の脆弱な交通事情にありました。移動を支援する目的で、2010年より自家用有償旅客運送(実施主体:口内有償ボランティア輸送システム)を開始、このうち交通空白地有償運送は、地域内の輸送であり、例えば自宅からバス停留所まで住民を輸送します。実はこれが、店っこくちないと関連しています。店っこくちないは、バス停留所「口内局前」と徒歩0分の距離にありますので、市街地からバスで口内地区に帰ってきた際、店っこくちないで買い物をしてから、交通空白地有償運送で自宅に送迎をしてもらうことが可能です。あるいは、交通空白地有償運送で自宅からバス停留所まで送迎してもらい、バスを待つ間、店っこくちないで待機する場合もみられており、バスターミナルのような役割を備えているともいえます。実際に店っこくちないを訪れると、買い物を終えた住民や、バスを待つ住民の皆さんがお喋りをしたり、お茶を飲んでいて、住民の交流機会が創出されている様子が窺えます。

 口内地区でみられる取り組みは、決して「成功」ではなく、「努力を継続している」ものです。なぜなら地区自体が人口減少および高齢化といった地域課題に直面し続けながら、それでも前向きに向き合っているからこそ、上記のような取り組みが生まれてきたからです。口内地区を訪問するとNPO事務局長さんがいつも「口内は過疎先進地である」とおっしゃっていることからも、痛感させられます。

写真3 店っこくちない

3. さいごに

 買い物支援の取り組みとして、二つのケースを紹介しました。いずれも買い物のできる場を創出するのみならず、住民の交流機会が創出されている点が特徴です。少子高齢化や過疎化といった、解決策がなかなか見出せない課題を抱えている地域ですが、だからこそ、買い物支援を通して課題解決を図っていくといった視点も重要ではないでしょうか。

 また今回は、買い物が不便な地域において、既存施設を活用し店舗を開設したケースを取り上げましたが、いずれかのサービス事業を単独で実施するのではなく、複数のサービスを組み合わせて複合的に実施することも重要です。例えば店舗まで自分で行くことができない住民のために、宅配サービスにより商品を届けるとか、送迎サービスにより店舗に来てもらうといったサービスが挙げられます。ただしいずれのサービスにおいても越えなければならない課題があります。地域によっては、人口が減少していることで、サービス利用者も減少傾向にあるケースもみられますので、需要規模に応じた自立的なサービス運営が求められるでしょう。秋田県のお互いさまスーパーが展開される各地域や、北上市口内地区のように、人口減少および高齢化といった地域課題と向き合いながら、補助金に頼らず運営を維持している点は、サービスの継続的展開につながると期待できます。さらには、買い物を通じた地域拠点の形成および機能向上にもつながっており、高齢化が進行する地域でも住民が安心して暮らすことができると思います。

参考文献

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