土井 勉( 一般社団法人グローカル交流推進機構)
1.バス路線の持続可能性について
バス路線は、人口がある程度集積したところと、そのエリアにいる人々が行く駅、勤務地、学校、商業施設、病院などの施設を結ぶことで形成されてきました。
バス路線が開設されてから、数十年間も人々の日常生活を支えている路線も少なくないと思います。
また、近年の社会構造の変化により、バス路線の新設が行われきた場合もあります。
こうして形成されてきたバス路線が現在の目で見て持続可能なものかどうかについて、主に収支の視点から、検討することには重要な意味があります。
路線の評価については、もちろん収支以外の視点(例えば、高校への通学の足の確保、病院への送迎など行政からの補助を得て運行している場合も多い)も重要です。こうした路線では、黒字になることは困難であっても、路線の運行の目的を十分に達成することと並行して、できるだけ効率的な運行を心がけることは、その路線の持続可能性を高めるためにも重要なことだと考えられます。
2.神戸市バスを対象にした検討から
2020年度に神戸市では「データに基づく持続可能な路線バス網の構築向けた有識者会議」(以下、有識者会議)を設置され、ここで適切な路線設定や適切な便数設定について議論が行われました。
有識者会議の議論で見えてきた成果をここでは紹介したいと思います。
ここでデータに基づくということですから、バス路線に関わる運行距離や所要時分、本数、駅への接続状況、乗降客数、その年齢、利用目的、車内人数等のデータだけでなく、路線の地域概況として人口、周辺施設、停留所標高等などのデータも活用して検討が行われました。
では、次に検討の結果を紹介したいと思います。
表-1 議論に使われたデータ(神戸市:有識者会議HPから)
2.1.データ分析から得られた利用実績が多い路線の特徴
・沿線人口が多い路線
・駅や学校や病院などの施設数が多い路線
この2点は、きわめて当たり前のことです。
そもそも沿線の人口が多くないとバスの利用者数は少ないですし、バスに乗って出かける場所がないと、利用は少ない状態になります。
・停留所標高差が大きい路線は利用実績が多い
バスの需要で注目する3点として「送迎、坂道、悪天候」と言われることがありますが、この検討で標高差と利用者数等の相関があることが確認できました。
2.2. 運行時分が45分を超える路線では収支がマイナス
長大路線は、距離が長いので運行費用が上昇することで収支が悪くなると想定されていましたが、今回の神戸市バスについては、運行時分が45分以上になると収支がとれなくなることがわかりました。経験的に知られていたことを、具体的な数字で把握するできたことになります。
神戸市バスについては、今後45分を超える路線については、短縮の可能性を検討することで収支を改善していくことが期待されることになります。
ただ、この45分という数字は神戸市バスの状況(市街地では信号の間隔が短い、斜面地が多いなど)によって算定された条件となっているので、他のバス事業者と異なるものになることに注意が必要です。
2.3.駅を起終点とした循環路線は非循環路線に比べて成果指標が低い傾向
ここで、成果指標とは路線バスの運行状況を把握するために、平均車内人数、最大車内人数、営業係数を用いて得点化したものです。
循環路線は一部に成果指標が高い路線もあるのですが、成果指標が低い路線が多いことが明らかになりました。これも経験的にご承知の方も多いと思いますが、今回の検討で定量的に把握できたことになります。
2.4.この他にも
便数の検討を行うための指標として、「最大車内人数」なども今回の検討で議論をすることになりました。
こうしたデータに基づく検討を行うことで、暗黙知を形式知にすることが可能となります。
神戸市では、バスのICカード2タッチ化を進めることで、バス停間のODデータを取得する取組を2021年3月からスタートするなど、データを重視したバスのサービス提供に力を入れて取り組まれることになります。
さらに、データ分析とは少し異なりますが、地域公共交通は他社の路線を含めて、使いやすくすることが重要です。これについて、神戸市交通局では2021年4月から市バスの普通区間IC定期券で神戸市内を運行するPort Loop(ポートループ)や一部の神姫バスを利用できる取組も進められることになりました。
なお、「データに基づく持続可能な路線バス網の構築向けた有識者会議」についてはこちらで情報が公開されていますのでご関心ある方々は、是非ご覧ください。