担当:福本雅之(合同会社萬創社)
全国各地で路線バスやローカル鉄道の減便や廃線に関するニュースが頻繁に聞かれます。特に最近では運転手不足により、増便はおろか、現在の運行便数を維持することすら困難となっています。
こうした状況を背景として、AIオンデマンド交通や公共ライドシェアに期待する向きもあるようですが、こうした輸送力の乏しい交通モードのみで地域の移動ニーズ全てに応えることはできません。通勤や通学といった一定のボリュームのある移動ニーズに応えるためには、鉄道や路線バスといった“古めかしいが輸送力のある”交通モードの利便性向上に取り組むことが必要です。
長野県上田市では、2025年から、バス事業者の運転手不足による減便が生じていた路線バスの増便(減便の復活)や主要路線へのパターンダイヤ化導入を目玉とした公共交通の利便性向上に取り組んでいます。
全国的にもこの時期に路線バスの増便による公共交通の利便性向上に取り組む例は珍しいと言えます。今回は、筆者も協議会委員として関わっていることから、上田市の公共交通利便性向上の取組についてご紹介します。
利便性向上策の概要
上田市の利便性向上の取組については、上田市のウェブサイトにまとめられていますが、主立ったものをここで紹介しておきます。
主要3方面路線バスの増便・パターンダイヤ化
上田市の路線バスは上田駅前を拠点として、真田・丸子・青木の3方面への路線バスが主要路線として運行されています。現在、上田市が取り組んでいる利便性向上では、この主要3路線のパターンダイヤ化と終バス延長が目玉となっています。
真田方面(2025年10月実施)
上田駅前から旧真田町を経て、傍陽(そえひ)・菅平高原方面へ向かう路線バスは、上田バスが3つの系統を運行していますが、これらが共通して運行している上田駅前~真田地域自治センター入口間についてはダイヤ調整を行い、日中30分間隔のパターンダイヤ化を実施しました。これにより、上田駅~真田自治センター入口間の平日の運行便数は、ダイヤ改正前 上下55便 → ダイヤ改正後 上下62便へと増便されました。

丸子方面(2025年10月実施)
上田駅前から旧丸子町を経て、鹿教湯(かけゆ)温泉・武石(たけし)方面へ運行する路線バスは、千曲バスが運行していますが、上田駅前~丸子駅間についてはダイヤ見直しを行い、日中1時間間隔のパターンダイヤ化を実施しました。これにより、上田駅~丸子駅間の平日の運行便数は、ダイヤ改正前 上下34便 → ダイヤ改正後 上下35便へと増便されました。
さらに、運転手不足により2便繰り上げとなっていた終バスのうち、1便を復活させ、上田駅前発の終バスを、ダイヤ改正前 18:47発 → ダイヤ改正後 20:00発として、1時間以上繰り下げました。

青木方面(2026年4月実施予定)
上田駅前から青木村へと千曲バスが運行する路線バスについては、既に日中1時間間隔のパターンダイヤ化はなされていましたが、運転手不足により終バスが3便繰り上げられています。これについては2025年10月時点では運転手の確保が間に合わず、実施見送りとなりましたが、2026年4月ダイヤ改正において、最終バスの繰り下げと、並行する室賀線の1便を振り替えることにより、1便の増便が実施予定となっています(なお、2025年10月現在でも青木村の村営バスが上田駅前20:25発の救済便を運行していますが、上田市内での乗降はできません)。
これにより、平日の運行便数が、ダイヤ改正前 上下27便 → ダイヤ改正後 28便となる予定です。また、上田駅前発の終バスの時刻が、ダイヤ改正前 19:29発 → ダイヤ改正後 19:55発となり、26分繰り下がる予定です。

その他路線バスの見直し(2025年10月実施、祢津線は2025年4月実施)
主要3路線以外にも路線バスの運行経路やダイヤの見直しがいくつか行われています(このうち一部は2025年4月に先行実施済み)。詳細は上田市のウェブサイトにまとまっていますので省略しますが、低い収支率や運転手不足により廃止が検討されてきた路線についても、商業施設など利用が見込める施設へのアクセス向上を図るように経路変更し、“高齢者の買い物に寄り添う路線として再編(上田市ウェブサイトより引用)”するなどしています。
上田電鉄別所線の増便(2025年3月実施)
2025年10月のバス路線の再編に先立ち、上田~別所温泉間の別所線を運行する上田電鉄では、2025年3月から同社独自の実証実験として増便が行われています。具体的には、上田駅~別所温泉間で平日昼間時に上下とも1時間に1便の運行であったものを、利用の多い上田~下之郷間において区間便を新設することで1時間に2便へと増便、朝夕時間帯にも区間便の増便を行い、平日の運行便数は、ダイヤ改正前 上下56便 → ダイヤ改正後 上下78便へと増便されています。
上田電鉄増便の取組は上田市の行政施策として行われたものではなく、上田電鉄独自の社会実験として行われているものですが、上田市がバスの利便性向上施策を予定していることを意見交換の際に伝えたところ、上田電鉄として構想にあった増便を実現すべく調整され、実現されたものです。

上田市の取組に至る経緯
減便の申し出
そもそも上田市でこのような取組が行われることとなった経緯としては、他の地域同様、「2024年問題」により運転手不足が深刻化したことがきっかけです。
2023年秋頃から上田市内を運行する上田バス、千曲バスの2社でも運転者不足が深刻化し、2023年12月の協議会の場においては、事業者から将来的な経営の継続困難や、路線バスの減便・廃止を示唆するような発言が相次ぎました。
さらに、2024年2月には、バス事業者からの申し出により運転手不足を理由とする休日の大幅減便と平日終バスの繰り上げについての協議が協議会に上程されました。同じ頃、長野市内においても大幅な路線バス減便・廃止が問題となっていたこともあり、上田市においても市としての対応が問われることとなりました。
市の対応方針
上田市ではこれらの事業者の申し出を受けて、それまで10年以上にわたって継続してきた「運賃低減バス(市内路線バスの運賃を上限500円までとする施策)」を取りやめて、ゾーン制運賃を導入し、運賃値上げを行うとともに、市からの財政支援を強化することで、バス事業者の経営改善・運転手の処遇改善につなげ、運転手不足を解消する方針を立てました。
そもそも、上田市内の路線バスはこれまでも全て赤字路線でしたが、国の補助制度や運賃低減バス事業の範疇では、バス事業の赤字の全額を埋めることができておらず、バス事業者が貸切バスや高速バスなどの他事業から内部補助を行うことでサービスを維持していました。これでは、バス事業者がいくら稼いだとしても利益が赤字補填に消えてしまい、運転手の待遇改善ができないため、運転手不足の解消につながりません。そこで、上田市では市の財政負担を増やすことで、バス事業者が負担していた赤字を大幅に減らすこととしました。
これらの施策を実施するためには公的負担の増加が必要ですが、国土交通省の地域公共交通利便増進実施事業(詳細はリンク先を参照)を活用するべく、隣接する青木村と合同で地域公共交通利便増進実施計画を策定し、国補助金を得ることとしました。これにより、市の公的負担は見かけ上増加するものの、国や県からの補助金と特別地方交付税の算定額の増加などにより、市の持ち出し額はほぼ変わらないという試算結果も得られたことで、財政部局の理解を得ることもでき、バス事業者の大幅減便申し出から1年半という短期間で事業実施にこぎ着けることができました。
さらに、こうした財政負担とバスサービスの供給について、市とバス事業者の間で協定を結び、継続的に取り組むことを合意しています。
信頼関係の醸成が鍵
これらの路線見直し、財政負担の試算、利便増進実施計画の作成、協定の締結、そしてそれらに付帯する関係者との協議や話し合いなどは、コンサルタント会社などを入れず、市の担当者だけですべて行いました。その過程において、市役所とバス事業者の間の信頼関係が強化されたことで、さまざまな取組がやりやすくなっていったことも特筆されます。実際に事業者側から経路の変更や増便の提案もなされ、それらも取組に反映されています。
また、運賃低減バスの終了により利用者負担が増加することについては、市内各所で利用者説明会を実施し、理解を得ています。先にも述べたとおり、県内各所で路線バスの廃止・減便が話題となっていた時期でもあり、市民からは「運賃が多少上がっても、便数が確保される方が良い」という意見が寄せられたということです。
運賃低減バスに替わるゾーン制運賃の導入にあたっては、いきなりの値上げではなく激変緩和措置として5年間かけて段階的に値上げを行うことになっています。さらに、運賃値上げの影響を最も受ける高校生の通学定期については値段を据え置くとともに、高頻度利用者向けの緩和策として、回数券に設定しているプレミアム率を従前の10%から20%に引き上げました。
こうした事業者や市民との信頼関係を築くための話し合いの回数は、大小を合わせると1年間で100回以上に上ったということです。
終わりに
上田市の取組を一言で言い表すとすれば「愚直」ということになります。
筆者は、地域公共交通の施策を行うためには、いわば漢方薬を飲みながら生活習慣の改善にじっくり取り組んで健康を回復するような姿勢が必要であり、すぐに効くような特効薬はないと考えています。生活改善をするためには、食べ物を我慢したり、運動するという努力が必要であり、決して楽ではありませんが、それを避けて安易に痛み止めに頼っていると、長い目で見て健康を害することになります。
上田市の場合も、公的負担を大幅に増加したとはいえ、地区によってはバスが通らなくなったり、減便となったりしたところもありますし、利用者によっては運賃負担が増大することもありますので、今回の改編は良いことばかりというわけではありません。しかし、限られた人員や予算をできるだけ有効に活用して、可能な限り利便性を高めようとする中で施策の取捨選択をしつつ、不利益をこうむる部分には理解を得る努力を地道に行うしか、公共交通を守る道はないでしょう。もし、ここで何らかの手を打たなければ、上田市の公共交通が崩壊する未来があったかもしれません。
そうした未来を避けるため上田市では、既存の鉄道や路線バスをもう一度見つめ直し、その悪いところをできる範囲で一つずつ、時に痛みを伴いながらも愚直に治していく取組を行っています。それは、昨今、各地で行われている華々しい交通システムの導入に比べると、非常に地味で遠回りに見えるかもしれません。しかし、一見遠回りに見えるこれらの取組は、地域公共交通の幹である鉄道や路線バスという、いわば体幹を維持・強化するものです。体幹がしっかりしていなければ、いくら枝葉に素晴らしいシステムを導入しても支えることができません。
上田市の取組はまだ始まったばかりですから、今の時点でどのような成果が得られるのか見通せない部分もありますが、こうした愚直な取組をする地域が広がることを願っています。
※本稿の内容は筆者が協議会委員として関わった中で持った所感をまとめたものであり、上田市の公式見解ではないことを最後に申し添えます。

