オンデマンド型乗合タクシー相乗り向上のヒント

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

オンデマンド型乗合タクシーを運行しているのだけど、ほとんどが一人の利用で相乗りにならないんだよなぁ

乗合率を向上させる工夫をしてみましょう

 乗合タクシーは、乗りあってこそ効率的な運行ができるはずなのに、一人での利用ばかりだと行政が補助をして安く利用できるタクシーと変わりません。相乗りを向上させるためには、どのような工夫ができるのでしょうか?

グループでの利用を呼びかける

 一人一人で利用してもらうのではなく、同じ地域に住む人同士や、友人同士で声を掛け合ってもらい、なるべく一緒に利用してもらうように呼びかけている例があります。同じ地域で別々の人がそれぞれに配車を依頼すると、車両の運行が非常に非効率になるので有効だといえます。

 さらに、利用者同士の交流も活発になることから、高齢者の閉じこもり防止などにも効果的だと考えられます。

相乗りをすると運賃が割引になる

 利用者同士での呼びかけをさらに促す仕組みとして、相乗りになった場合に運賃が割引になるようにしているところがあります。例えば、福井県あわら市の乗合タクシーは、一人で乗ると600円ですが、2人で乗ると一人あたり300円、3人以上で乗ったときには一人あたり200円の運賃となります。

出典:あわら市乗合タクシー

目安のダイヤの設定

 オンデマンド交通の場合、運行ダイヤを設定しないこともできますが、利用者の予約に応じていつでも随時運行する形とすると、複数の利用者が偶然、同じ時間に同じ方面に利用するという予約を入れる場合でなければ相乗りは成立しません。

 そこで、おおよその目安となるダイヤを設定することが考えられます。例えば、9時台、10時台、11時台にそれぞれ1便ずつ運行するというようなものです。こうすることで、利用者を時間帯毎に集約しやすくなります。

 目安のダイヤの設定には少しコツがあります。それは、分単位のような細かい時間設定としないことです。そもそも、オンデマンド交通は利用者を順に拾っていくため、分単位での運行が難しいという特性があります。配車システムの中には、利用者のスマホにリアルタイムで到着予想時刻をフィードバックするようなものもあるようですが、利用者の多くを占める高齢者にスマホで複雑な操作を前提とするのは、容易ではないでしょう。

 時間制約の厳しい利用はタクシーをご利用いただき、オンデマンド交通は最大公約数としての目安時間で利用いただく(ゆえにタクシーより安く利用できる)ような乗り物であるという風に考えると良いのではないでしょうか。

予約オペレーターによる調整

 ダイヤを目安として設定しなかった場合には、利用者からは「9時にお願いします」とか「10時半にお願いします」という風に、00分・30分というキリの良い時間を指定して予約が入ることが多いでしょう。そうすると、1日の単位で見れば利用が少ないのに、各時間帯の00分・30分だけは予約を断っているというようなことが起きてしまいます。

 こうした事態を予約オペレーターが調整することで解決している例があります。すなわち、「9時にお願いします」という予約を受けたとき、すでに9時に先約が入っている。ただ、5分待ってもらえば迎えに行けそうな場合に、「9時は難しいですが、9時5分ではダメでしょうか?」と逆提案するのです。そうすると、時間制約が厳しい(鉄道に乗り継ぐような場合)利用者には対応できませんが、通院や買い物など、比較的時間に余裕がある利用者には受け入れられることが多いでしょう。

 こうすることで、相乗りも促進されますし、無駄な配車も減らすことができます。

 実はこうした調整は、予約受付オペレーターの機転で行われていることが多いのです。こうした機転の利かせ方と、利用者への優しい言葉での提案はまだまだシステムでは難しく、人に依存することが多いのです。

おわりに

 オンデマンド交通の配車効率を高める目的で高価な配車システムを導入する例が多く見られますが、蓋を開けてみたら一人での利用ばかりでシステムがなくても十分だったというような笑えない話があります。一方で、ここに紹介したような相乗りを高める工夫は、どこでも実施することが可能なものばかりです。

 システム導入に意味がないと言っているわけではありません。システムの導入をしさえすれば効率的な運行になる訳ではないし、それ以前に様々な工夫の余地がある、ということは心に留めておいていただければと思います。

 ただし、新型コロナウイルス感染症の影響のある現在、相乗りを積極的に勧めることは難しいでしょう。コロナ収束後に向けて、今はアイディアを考えることとしましょう。