クルマに関する予算を公共交通の予算に振り向ける

担当:土井勉(一般社団法人グローカル交流推進機構)

有望な若手
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公共交通の予算とクルマ(道路)のための予算は桁が違うと言われていますが、その道路の予算を公共交通を支える予算に変えることは可能なのでしょうか?

トリセツ
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よい地域公共交通計画を策定しても、予算がないと実施ができないので、財源をいかに確保するのかは重要なことですね。ここではクルマの予算を公共交通の予算に活用している取組を紹介したいと思います。

道路の予算を公共交通へ振り向けることは簡単ではない

 知恵を絞って地域公共交通計画を策定しても、予算がないと実施ができません。そこで、財源をいかに確保するのかは、きわめて重要なことです。。

 地域公共交通を支える国の予算は「地域公共交通確保維持改善事業等」で約209億円(令和7年度)、他にも様々な予算がありますが、合算しても概ね数百億円という規模感だと思います。

 一方で、公共交通と同様、人々の移動を支える手段であるクルマの走行環境を整える予算として、道路整備の予算があります。道路整備の予算の原資として有名なものに、かつては「道路特定財源」(2009年以降は一般財源化)とされていた揮発油税(ガソリン税)がありました。こちらは桁違いに巨額で、現在(2025年度)の国の道路整備に関連する予算の規模は概ね2~2.5兆円で推移しています。

 公共交通とは予算の規模が大きく違うことがわかりますね。公共交通は利用者減少による赤字路線の増加や、ドライバーの待遇が悪いことによる労働力不足から路線縮小など様々な厳しい状況が目の前にあります。だったら、道路も公共交通も人々の移動を支えるのだから、膨大な道路の予算の一部を公共交通に振り向けることが期待される、という意見もしばしば耳にします。

 ただ、道路整備についても、主な使途は高規格道路の整備、老朽化対策(2025年に埼玉県八潮市で下水管の破損による道路陥没事故が起こったことは記憶に新しいことですね)、災害に強い道路網の構築、適切な維持管理など必要な仕事は増加しているので、その予算を公共交通へ振り向けることは簡単ではありません。

 しかし、自治体によっては様々な工夫をすることで、クルマに関するお金を公共交通の充実に活用している取組があります。そこで、本稿では京都府長岡京市におけるユニークな実践を紹介したいと思います。

長岡京市の駐車場整備事業の償還終了と余剰金の扱い

 京都府長岡京市は、人口8万人、JR京都線と阪急京都線が走っていて、京都市や大阪市へのアクセスが良く、工場立地、そして多くの住宅が集積する郊外都市です。

 長岡京市地域公共交通協議会では、2025年度の活動として、2023年に策定した「長岡京市地域公共交通計画」の取組を推進するための原資として、2024年度に事業債償還が終了した市営駐車場の整備費用の予算を2025年度から、公共交通の維持・確保に充てることになりました。具体的には下の図に示す枠組みが基本的な考え方になります.

図-1 長岡京市:地域公共交通計画と駐車場整備余剰金の関係(2024年度長岡京市協議会資料より)

 ここで、駐車場というのは、2015年にJR長岡京駅前に市街地再開発事業で整備されたバンビオ2号館の長岡京市営長岡京駅西駐車場(388台収容)のことです。この駐車場整備費用については、駐車場の利用料から償還していくことになっていますが、約20年を経過して事業債の償還が終了しました。

 償還が終了したということは、駐車場の料金収入のうち償還に必要だった予算が余剰金となります。駐車場はクルマ 利用の人たちが使用し、その使用料を支払うものですから、余剰金についても、クルマ関連の予算として使用することが通常の考え方です。

 しかし、長岡京市では、図-1にあるように「余剰金は公共交通の維持・確保に充てることで広く市民に還元していく」という方針が検討されました。

長岡京市公共交通基金の設立と公共交通計画へのサポート 

 「余剰金は公共交通の維持・確保に充てることで広く市民に還元していく」ことを実現するためには、余剰金を公共交通に活用するための基金という「財布」を設置することで確保することになりました(図-2)。

 ここで駐車場で得られる年間(2025年度)の売上が66,000千円。このうち、これまで駐車場整備建設債として確保されていた32,000千円/年が完済されたことで余剰金となり、新たな使途に振り向けることが可能となります。そこで、この32,000千円のうち20,000千円は今後の駐車場整備などを担う駐車場事業基金に積み立てることになりました。そして残りの12,000千円は公共交通基金を新設し、ここにお金を積み立てることになりました。

図-2 長岡京市公共交通基金の流れ(長岡京市:2024年度協議会資料)

 2025年度の予算では、この公共交通基金で積み立てられた12,000千円のうち、8,000千円を活用して、地域公共交通計画を補完する取り組みである、公共交通利用者へのガラシャPayポイントの付与、バス・タクシーの担い手確保に向けた奨励金、通学定期券等の購入補助、デジタル広告による情報発信、公共交通マップの作成などに使われることになりました。

※ガラシャPayとは、長岡京市商工会が発行するプレミアム付き商品券

今後の展開

 長岡市公共交通基金の運用はまだ始まったばかりですから、その使途についても手探りのところがあります。ただ、2026年度の公共交通計画の取組には多様なものがあり、公共交通基金からのサポートも重視されることになります(図-3)。

図-3 これからの公共交通基金の役割とめざす方向(長岡京市:2025年度協議会資料)

 このように、駐車場の利用者=クルマの利用者から得られる駐車場使用料金を、直接クルマのために使うことではなく、これからの公共交通の充実のために取り組まれることが期待されます。

 その際、駐車場使用料金を単に公共交通サービスの充実に使うという視点ではなく、持続可能な公共交通を実現することで、「持続可能で魅力あるまちづくり」を実現することを目指すという目標の共有が重要だと考えられます(図-3)。

 長岡京市は今も微増ではありますが人口が増加し、駅前駐車場の利用も多いこと、多様な公共交通が存在することで、人々は公共交通の重要性についても認識されている等の地域の特徴があります。

こうした地域特性を活かすことで、クルマに関わるお金について公共交通に使うことができるという実例になると思います。

 そして、他の地域でも、機会があれば、こうした工夫をすることで様々なお金を公共交通に活用することができる可能性があると考えられます。

【参考資料】

1)   長岡京市:2024年度協議会資料

2)  長岡京市:2025年度協議会資料