担当:福本雅之(合同会社萬創社)
「若者の車離れ」って聞くけど、実際のところどうなんだろう??
実際には「若者の移動離れ」と言った方が良いかもしれません
免許を持たない若者たち
以前、こちらの記事で高齢者が自家用車を使えないというのは過去の話であるということを書きました。では、高齢者ではなく若者はどうなのでしょうか?
最近、「若者の車離れ」という言葉を耳にすることがあります。オジさんたちが若い頃は、高校を卒業したら免許を取りに行き、大学生になったらせっせとアルバイトをしてクルマを買い、気になるあの娘をドライブデートに誘う、なんていう学生生活が普通だった訳ですが(筆者自身はそういう生活をしていたわけではない、念のため)、今の若い人たちはそうでもないようです。
統計データから、過去と現在の免許取得状況を比較してみましょう。2020年と2001年を比較すると、16~19歳の男性では免許取得率が14ポイント以上減少しています。男性の場合、年齢が上がるにつれて減少の度合いは少なくなりますが、30~34歳でも5ポイントほどの減少となっています。女性については、20~24歳が最も減少度合いが大きく8ポイントの減となっています。若者の免許取得の減少は、高齢者の特に女性の免許取得率が大きく上昇しているのと比べると対照的です。このように30代半ばより若い人たちの免許取得率は減少しています。また、数々の調査によって、若い人が自動車に興味を持たなくなっていることも明らかになっています。
車離れだけではなく移動離れ
一方で、若い人たちの行動を見ると、車離れだけでなく「移動離れ」が起きていることにも注目しておくべきでしょう。
下図は全国パーソントリップ調査の結果から、各年代の外出回数を経年比較したものです。60代・70代の高齢者は過去に比べて外出回数が増加傾向を示し、直近に減少しているものの、全体としては右肩上がりの傾向です。つまり、今の高齢者は昔の高齢者に比べて元気で外出を活発にしているわけです。
一方で、20代を見ると、高齢者とは逆に右肩下がりの傾向が続いています。直近の調査結果では高齢者よりも外出回数が少ない結果となっています。今の若者は昔の若者に比べて元気がない、のでしょうか??
なぜ若い人たちは移動や車から離れるのか?
なぜ、若い人たちは車や免許を保有しようとせず、また、移動しなくなってきているのでしょうか?
その理由として、若者が買いたいと思うような自動車がない、マイカーが憧れの存在ではなく実用品と見なされるようになった、環境意識の高揚、カーシェアなどの普及により保有から共有へと意識が変化、長引く不況により経済的に車の保有が困難、SNSやゲームの家庭用ゲームの普及、インターネットショッピングの利用拡大、スマートフォンの普及、若年層では非正規従業者が増加し年収も減少傾向にあり、免許証や車を保有する経済力の低下、などなど様々なことが言われています。
これらのどれが原因と言うことではなく、様々な要素が関係して若い人が車を持たなくなったり、移動しなくなったりしているということでしょう。
地方の若者が移動に困っている
若者の車離れや移動離れと関係するのかどうかわかりませんが、様々な地域、特に地方部において地域公共交通のお手伝いをしていると感じることとして、「若者の移動が困難に直面している」ということがあります。
例えば、日本では三大都市圏以外では公共交通機関が貧弱であるため、「自家用車がなければ生活ができない」とよく言われます。実際に、仕事に就こうにも自家用車がなければ通勤できない地域は数多く存在しますし、自宅近辺で仕事をする農林業とて自家用車がなければ仕事になりません。このため、地方部においては、車は一家に一台ではなく、一人に一台というのが珍しくありません。この結果として、地方部においては自家用車にかかる費用(車両取得、維持、ガソリン代、保険代、税金などで年間60万円以上とも言われています)の家計に占める割合は大きなものとなります。一方で、都市部に比べて地方部の所得は低いため、自家用車に多額の費用がかかることは、とりわけ所得が少ない若者にとっては大きな負担なのです。
生活をするためには車が必要なのに、車を持つことによって生活が苦しくなるという現象が地方部で生じているように思えます。
もう一つ、地方特有の若者の移動に関する問題があります。それは高校生の移動です。高校生は自動車運転免許を取得できませんから、自家用車での移動はできません。しかし、公共交通機関が不便な地域においては、通学すら困難ということも珍しくなく、そうした場合には家族が毎日送迎して通学しているという地域も少なくありません。
「ドアトゥドアの自動車(しかも運転手付き!)で優雅に通学とはうらやましい。オジさんの若い頃はな!(以下長くなるので省略)」、と説教の一つもかましてやろうと思う方もいるでしょうが、実際に高校生の声を聞くとそうでもありません。送迎する家族の都合で部活にも参加できないとか、毎日送迎してもらうので(口には出さないとしても)気兼ねしているとか、友達の家に遊びにも行けないとか、まさか彼女とデートに行くのに親に送ってもらうわけにはいかないとか、いろいろな我慢をしているようです。
「自分は車が使えるから関係ない」と思う人も、ある日突然、車に乗れなくなることはあり得ますし、家族や友人がそうした状態にならないとも限りません。
都市部のように、「車がなくてもいつでもどこにでも自由に」とまではいかないにしても、「車がなくても自らの意思で自由に移動ができる環境を整える」ことは、地域で若者だけでなく様々な人々が生活を続けていくために必要なことであり、地域公共交通に取り組むことはそのための一つの方法と言えます。