担当:塩士圭介(株式会社日本海コンサルタント)
複雑なバス路線をどうやって分かりやすく伝えるか、悩ましい・・・問い合わせもいっぱいあるしなぁ・・・。
たくさんある情報を上手く伝えるには「適材適所」、つまり「必要な情報を」「過不足なく」提供することが大事です。提供する情報が多ければ良いという訳ではありませんよ。
皆さんは、普段利用される(または旅先で利用する)電車やバス、タクシー、コミュニティサイクル、旅客船、航空など様々な交通機関を、上手く乗り継ぐことは出来るでしょうか。また、初めて訪れる土地で交通機関を利用されるとき、どのように情報を手に入れ乗車されるでしょうか。そして、「分からない!」と困った経験はありませんか?
公共交通機関は幹線交通からローカル交通まで、様々な運行形態があり、それらの運行情報、乗り継ぎ情報等が分かりやすく提供され、ストレスなく利用できる仕組みが構築できれば、おでかけの足として住民に利用され、クルマに過度に依存することなく、移動を楽しみながら生活できる社会が形成されるのではないでしょうか。
十勝バスの野村文吾社長の話によると(*)、様々なバス利用者の声を聴いた結果、「バスは不便だから乗らないのではなく,不安だから乗らない」ということがわかったと言われています。不安を取り除くためにも情報提供は重要です。
(*)出典:日本経済新聞 やさしい経済学、土井勉「人口減少時代の公共交通」⑧利用者目線や情報技術がカギ(2018年6月20日)
(デジタル社会における)アナログな情報の大切さ
最初の話に戻すと、初めて訪れる土地で公共交通を利用される場合、多くの方はスマートフォンやPCで経路検索や各交通機関・施設のホームページを見ると思われます。しかし、それらデジタル情報「だけ」で公共交通を利用することは出来ません。
なぜならば、紙で印刷される(PDFファイルも含む)ことを意図した「路線図」、現場の駅やターミナルにおける「案内サイン」、「紙や看板」で貼り出される時刻表、そして電車・バスの行き先表示(いわゆる「方向幕」)など、現場における【アナログ】な情報が分かりやすく提供されることで、安心して公共交通を利用される環境が整うからです。
皆さんも、経路検索に従って現地に行ったら、剥がれかけの汚れた時刻表(写真1)、聞いたこともないマイナーな行き先表示のバスで、「本当にこのバスで良いのか・・?」と心配になったことはないでしょうか。
とにかく難しい?バスの利用案内
公共交通の情報が「統一されたルール」(行き先の表現方法、多言語表記ルール、フォントや色の指定、など)で分かりやすく出来れば、不安なく移動できると思います。鉄道の場合は、そもそも市販の地図に路線や駅が書かれているほか、案内サインマニュアルが早くから整備されている場合も多く、比較的迷わずに利用出来る方も多いのではないでしょうか。
一方のバスはどうでしょう。多くの方が「分かりにくい!」と思われると思います。それにはバスならではの明確な理由があります。
- 路線や系統が多くて複雑であること。
- 鉄道と比べて頻繁に路線、ダイヤ改正があること
- ターミナルの乗り場が多すぎて分かりにくいこと(系統数が多いことにも起因)
- 時刻表や案内図などの情報量が多すぎ、読み切れないこと(同上)
- 停留所の数も極めて多く、どこで降りれば良いか分からないこと
- 道路状況による遅延が頻発し、所要時間が読めないこと
など・・・
情報の分かりやすさ向上のためのチェック項目
公共交通(特にバス)の案内を分かりやすくするためには、現在の案内表示がどのような状況になっているか、下記の視点で考えてみるのが良いでしょう。
1.伝えるべき情報内容の選別と統一
利用者が、交通機関に乗ってたどり着きたいところは何処なのか、終点や経由地の地名表示をよく見極め、選別することが大事です。よくあるのは、著名な地名を案内せずに、系統の終点である「○○営業所」とだけ書いてある場合や、紙媒体時刻表では「A経由」と書いているのに、現場の案内(方向幕、音声アナウンス)は「B経由」と違う地名を案内していると、利用者は混乱します。系統番号が書いてあったり書いてなかったり、情報の出し方のルールが決まっていない場合にも同様の混乱が起こりがちです。
2.知りたい情報が、読んで直ぐ分かること
情報量は多すぎても少なすぎてもいけません。特に紙媒体(PDFファイル含む)や看板における一枚の地図にありとあらゆる情報を詰め込み過ぎると、逆に分かりにくいし、だれからも読んで貰えない、結果伝わらないし分かりにくさは改善されない、という事態になります。
細かいことですが、使用する色やフォント、のりば番号や系統番号の数字を丸で囲むのか四角で囲むのか、など、ディテールにもこだわって下さい。
3.案内表現方法について事業者間の連携が取れていること
同一場所にある駅名とバス停が違う(駅名同士が違う場合も・・・)場合や、逆に同じ名前なのに事業者によって場所が違うケースは全国に散見されるようです。
似たような話で、外国人対応のために英語表記をするのは良いのですが、同じ「xxx駅前」の英訳が、A社は「xxx Station」、B社は「xxx Eki-mae」とズレている場合もあります。
バスにおける情報提供内容の6箇条
バスの場合、特に情報量が多く複雑であることから、バス利用者の自宅から目的地までの交通行動に合わせて、適材適所でWEB(スマホ)、紙媒体、駅・ターミナル、バス停、車内、などにおいて必要な情報を選別して提供することが求められます。
1 | 基本的情報 | 運賃の支払い方や,乗降するドア、降車合図など,バスの乗り方が分かること |
2 | 系統情報 | どのバス(系統・行き先)に乗れば良いかが分かること |
3 | 乗車バス停情報 | どのバス停・乗り場から乗車すればよいか分かること(乗り場案内等) |
4 | 時刻表情報接近情報 | 乗りたいバスは何時何分に出発するかが分かることあと何分で到着するかが分かること |
5 | 降車バス停情報 | 目的地の最寄りバス停が分かること |
6 | 目的地情報 | バスを降りたあとの目的地への方向が分かること |
分かりやすい情報提供の例(京都市バスの例)
京都市交通局においては、「市バスの『わかりやすさ向上」のためのデザインマニュアル」を策定しており、市バスの案内表示全般に係る基本デザインをまとめています。目指すところは「シンプルでわかりやすい案内表示への一新」であり、情報量や伝える順番を整理し、利用者がその場で一番知りたい情報を絞り込み、その他の情報と抑揚を付けて提供すること、あらゆる媒体(紙、方向幕、バス停案内、車内路線図等)がこのルールに則って案内することにより、とかく複雑と言われる市バスのわかりやすさ向上に寄与しています。
複数交通事業者共同によるバス停の分かりやすさ向上の取組(京都市)
これも京都市の事例ですが、京都市を事務局として、8つの交通事業者が共同で、京都市内の主要駅周辺のバス乗り場の分かりやすさ向上に取り組んだ事例があります。
これまでは、各鉄道・バス事業者がバラバラで「路線図」「乗り場番号」を作成・表示していたために、デザイン、情報内容の統一が図られず、極めて分かりにくい状況でした。これを解消するため、社局毎にバラバラであった掲載内容を統一し,統一したフォーマットによるのりば番号及び主要行き先をデザインしています。バス路線図記載ののりば番号と上屋・標柱に記載ののりば番号において、色・フォントや行き先表示を統一し、出来るだけ見やすくするような工夫がなされています。
出典:京都市広報資料(平成25年3月27日)