アンケート調査の実施はどのようにすればよいですか?

担当:塩士 圭介(日本海コンサルタント)

アンケートをすることになった・・・とりあえず、1,000人ぐらいの住民に配る準備をしてっと・・・で、何を聞くんだっけ?

アンケートを実施する際には「誰に聞くか」「どのように聞くか」「何を聞くか」をしっかり検討し設計しましょう。もちろん、そのための予算確保も忘れずに。

はじめに

 以前の投稿(交通に関わる統計データには何がありますか?)で、交通・まちづくり計画に使える資料もたくさんあります。最近は行政が調査した調査データは無料でインターネットで公開され、誰でも利用出来ることを紹介しました。また、(公共交通の利用実態はどのように把握すれば良いですか?の項目で、公共交通の利用実態を把握するための調査・計測手法についてご紹介しました。

 しかし、住民や利用者が、どのような目的や交通手段で移動しているか、また公共交通に対する「思い」や「意見・要望」などは、既存の統計データやビッグデータでは捉えられることはないため、直接聞くしかありません。ここでは、地域の住民や従業者、来訪者の移動実態と移動ニーズを的確に把握するために、知っておきたいことについて説明します。

アンケート=郵送アンケート だけではない!?

 特に自治体が実施するアンケートでは、「公共交通についてのアンケート」を実施するということは、すなわち「住民に対する郵送(無作為抽出)アンケート」を実施することと同義に捉えられがちです。自治体が策定する地域公共交通計画においても、住民向けのアンケートを実施することを推奨されていることは確かです。

 しかし、無作為抽出によるアンケートが、調査で本当に知りたいことに対して手法として適切かどうかは全くの別問題です。例えば、人口が数万人程度の自治体で、公共交通の利用率がわずか3%と想定される場合(地方都市ではよくあるパターンです)、1,000通のアンケート回答があったとしても、公共交通を利用している人はわずか30通、ということになります。これで市民の声を聞いたことになるでしょうか?

 アンケートが本当に有効に機能して、必要な施策立案につながるためには、少なくとも下記の3つのポイントを踏まえる必要があります。

ポイント1:誰に聞くか?

 「誰に聞くか」がポイントなんて、何を当たり前のことを!と思われるかも知れませんが、割と盲目的になりがちです。ある特定の公共交通(例えばコミュニティバス)の改善を主眼にするのであれば、無作為のアンケートよりも、現在の利用者であるバスの乗客に対して車内またはバス停でアンケートを実施することが最も効率的です。

 逆に、潜在的なニーズ(現在バスに乗っていない方をどう掘り起こすか)を把握するのであれば現在の利用者ではなく、利用してくれそうな方(例えば高齢者向けのコミュニティバスであれば老人クラブなど、通学目的であれば学生)にターゲットを絞って聞くことも有効でしょう。

 住民に広く無作為で調査することが有効な場合は、例えば自治体全体の交通計画を立案する際に、自動車ユーザーも含めた交通行動(通勤や買物・通院などの目的地)を把握すること、などが挙げられます。ただし、公共交通利用率が低い地域では、無作為によるアンケートでの公共交通利用の度合いは少なくなることに留意する必要があります。

ポイント2:どのように聞くか?

 アンケートと言えば、紙に印刷された調査票を思い浮かべます。住民に対して無作為に調査する場合は、無作為抽出による郵送配布・郵送回収による調査が一般的ですが、ポイント1「誰に聞くか?」で考えたように、調査ターゲットが明確であれば、以下のような調査方法も考えて下さい。

 バス・鉄道利用者に対してであれば、バス・鉄道車内、またはバス停・駅利用者に対してハガキ・調査票を配布する、またはインタビュー形式で直接聞く、などが考えられます。運行本数や駅・バス停の数によって調査規模が変わってきますので、車内で聞くのがよいか、主要停留所・駅で聞くのが良いか、効率性と調査費用の観点から考えることが必要です。

 高齢者その他特定の需要に対して、ターゲットが明確であれば、インタビュアーが直接出向いて、公共交通に関するヒアリングやグループインタビューを行うことが有効です。特に、様々な会話を通じて、調査する側もされる側も公共交通に関する新たな気づきが得られる場合もあります。

ポイント3:何を聞くか?

  何を聞くか、については、国土交通省が代表的なアンケート調査における主な設問内容を示しています(参考文献1及び2)。現在の公共交通の利用頻度や問題意識、改善要望などは是非聞いておきましょう。また、居住地や年齢等の個人属性も併せて把握することで、クロス集計(例えば居住地別の交通手段利用率の違い、など)を行うことが可能です。

 その他にも、論点として設定されている問題について、アンケートでの調査が可能なものについては、設問を追加する必要があります。特に、利用が見込まれそうな地域や新しい交通行動パターンなどが想定される場合は「仮説を構築し、検証する」ための調査とすることも考えられますので、調査の対象や設問内容を目的に応じて工夫する必要があります。

 

出典:「地域公共交通確保・維持・改善に向けた取組マニュアル」pp.84~90、国土交通省近畿運輸局HP

おまけ:アンケートで必要な票数は?

 アンケートで有効回答が何票必要なのか?何枚配布すれば良いのか?この結果は統計上有意なのか?など、アンケート調査でよく聞かれますので、この際整理しておきます。

 国土交通省が示している手引き(参考文献1)においては、アンケート調査のサンプル数について下記のように示しています。

  

ここで、イキナリ数式が出てきますので、拒否反応を示す方も多いかも知れません。そこで、上記から計算される必要とされるサンプル数(有効回答数)のグラフを下につけておきます。

母集団を変化させたときのサンプルサイズの変化

 母集団を変化させたとき、必要となる有効回答数は、許容誤差(ε)によって大きく変わる一方で、母集団(対象地域の全人口)が大きくなっても、必要サンプル数は一定に収束することが分かります。一般的なアンケートでは、許容誤差ε=5%とする場合が多いため、このグラフから読み取れることは、対象人口の多さにかかわらず、350件程度の有効回収があれば良い、ということになります。

 ただし、この解釈には注意が必要です。公共交通のアンケートでは、地域別や年齢別の比較などのクロス集計を行う場合が多いと思いますが、クロス集計を行うと、属性ごとのサンプル数は少なくなるため、全サンプルでの単純集計では必要なサンプル数が確保できていても、クロス集計の有意性が確保されないことになります。

 ここから先は筆者の私見となりますが、「全体の許容誤差は5%、ただし地域別(例えば5地域別)クロス集計の許容誤差は10%を確保したい」ということであれば、上記のグラフを参考に、クロス集計を行うであろう地域別に最低100サンプルを確保することを前提として全体のサンプル数を設計する、ということも有効かと思います。この場合、5地域ごとにクロス集計を行いたいのであれば、100×5=全体で500サンプルが必要、という話になりますが、このあたりは調査予算との兼ね合いも考えて、どのぐらいの地域区分で分析をするか考えて設計されることをおすすめします。

参考文献

  1. 地域公共交通計画等の作成と運用の手引き 第1 版(令和2 年11 月)」詳細編 pp.84~93、国土交通省HP
  2. 地域公共交通確保・維持・改善に向けた取組マニュアル」pp.84~90、国土交通省近畿運輸局HP
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