【コラム】コロナ下における情報発信のあり方

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構 客員准教授)

公共交通に対する漠然とした不安

 コロナの影響による公共交通の利用減少は、外出自粛による移動そのものの減少に加え、公共交通機関による移動が忌避されているという要因もあります。単純に言うと

「公共交通機関(特に混雑した車内は)感染リスクが高いのではないか?」

 という漠然とした不安から、マイカー等の別の移動手段を使うというような状況です。しかし、これまでも様々な指摘がされていますが、公共交通機関の利用そのものが危険なのでなく、車内でマスクなしの会話や不十分な換気によりリスクが高まってしまうことが問題の本質です。

 こうした漠然とした不安を解消するには、正しい情報を、しっかりに認識してもらうように、時としてしつこいくらいに伝えることが重要です。よく使われる表現に「検索できないバスは、走っていないことと同じ」というものがあります。どんなに良い感染防止対策をしたとしても「利用者に認識されなければ、やっていないのと同じ」とういうことになってしまいます。

交通事業者からの情報発信

業界ごとのガイドライン

 感染防止対策のガイドラインは、鉄軌道、バス、タクシー、旅客船の業界団体ごとに示されています。例えば、「バスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」は5月14日に第1版が公開され、7月14日までに第4版にまで改定されています。
 このガイドラインの内容に問題があるわけでなく、むしろしっかりと状況の変化に合わせて改定が行われていることは大切なことです。このトリセツを見ているような交通事業者の方々はこのガイドラインを見たことがあると思いますが、一般のバス利用者は業界団体である日本バス協会のWEBサイトを見て、その中にある長文のPDFファイルをしっかり読む方は非常に稀なのではないかと思います。
 これがまさに、「利用者に認識されなければ、やっていなのと同じ」の事例です。

交通事業者のWEBサイト

 交通事業者のWEBサイトはコロナ以前から分かりづらいと言われることが多かったのではないかと思います。WEBサイトはあるけれど調べたい路線図や時刻表、運賃といったものがなかなか見つからない。そして、コロナ下においては運休・減便といった運行情報が整理されないまま日々更新され情報が膨大になり、さらに分かりづらいものとなりました。

 状況に応じて更新することはとても大切なことですが、全てが「お知らせ」の項目の中で更新された結果、利用者に伝えたい感染防止に対する取り組みの情報が過去の情報として埋もれてしまっているというようなとこもの散見されました。

 WEBサイトを自社で運営しているか、外注しているか、CMSを活用しているかなどそれぞれ自由度が異なります。しかし、それ以前の前提として、状況に合わせて更新すべき情報と更新頻度は高くないが重要度の高い情報等の整理・分類を行う必要があります。特に、サイトの運営を外注している場合には、外注事業者からするとどの情報が重要なのかの優先順位は思っている以上に分かりません。

誰が主語になるかも大切

 以下の2種類のポスターを見かけた方も多いのではないかと思います。

 新型コロナウイルスによる交通崩壊を防げ!で公開された左のポスターは、企画段階から関わらせて頂きました。こちらは「交通事業者」が主語となっており、上段で交通事業者が行っている取り組み、下段が交通事業者からの利用者へのお願いが書かれています。

 一方でJCOMMで公開された右のポスターは専門家の監修を受けつつ、「第三者であるJCOMM」が主語となっています。似たような情報の書かれているポスターですが、情報を受け取る利用者からすると印象は異なります。
 何をしているか、何をして欲しいかということを訴求したいのであれば、実施主体である交通事業者が主語となったほうが伝わりやすいですし、公共交通は安全ということを示したいのであれば、第三者が主語となり客観的に伝えたほうが良いということもあります。

 この2つのポスターのように、何を伝えたいかによって見せ方(誰を主語にするか)を使い分けることも重要です。

自治体からの援護射撃

 情報発信は交通事業者だけが行うのでなく、同時に自治体から行うことも援護射撃になります。

 多くの利用者は目的地に移動するために、複数の交通事業者を乗換て移動することは珍しくありません。そのため利用者は、交通事業者ごとに運行情報を確認する必要が生じてしまいます。そこで、地域内の交通事業者からの情報をまとめ、市町村のWEBサイトで統合した情報として発信することも有効です。沼津市などでは市のWEBサイト内に専用のページを用意し、交通事業者の運行情報や感染防止対策の発信を行っている事例があります。

 また、同様に運行情報だけなく事業者が実施している感染防止策のまとめを掲載することは、公的機関である自治体という「第三者」が主語となり客観性が高まります。三重県などでは、前述のポスターを活用して鉄道・バス・タクシーで共通で利用できるポスターの配布をしています。利用者からすればどの交通機関を利用しても同じポスターが掲示されることになり認知度の向上に役立っています。

 このように、同じ情報でも情報の発信元を工夫することで相乗効果を図ることもできます。

 今回のコロナウイルスは、誰も体験をしたことのない事態であり、これをやれば効果的だという過去の情報の蓄積がありません。また、状況は日々変わり、昨日まで正しかった情報がすぐに陳腐化するという状況です。誰にどのような情報を伝えたいかをしっかり整理した上で、最適な方法での情報発信を心がけましょう。

参考文献