交通政策立案における生成AIの活用を考える

担当:塩士圭介(日本海コンサルタント)

はじめに

生成AIの業務適用が急速に進展しています。ChatGPT、Claude、Geminiなど多様なAIツールが次々と登場し、ビジネスシーンでの活用が注目を集めています。

実務現場でも、「AIを使ってみた」という話を耳にする機会が増えてきました。一方で、「どう使えばいいのか分からない」「使ってみたけど期待した答えが返ってこない」と右往左往している面も見受けられるのが、筆者の肌感覚です。

本稿では、交通計画・交通政策分野に焦点を当てて、生成AI活用における筆者が見えている景色から、AIとの正しい付き合い方を論じたいと思います。実務者の皆さんが明日からの業務で活用できる視点を提供できれば幸いです。

生成AIの「哲学」を理解する

生成AIを使いこなすには、まずその本質を理解する必要があります。ここでは5つの重要な視点を示します。

AIは現場を知らない

これは最も重要な前提です。AIは現場を知りません。住民の生の声、バス停での乗り継ぎの不便さ、高齢者が坂道を上る大変さ—人間が体感しているこれらのことを、AIは知りません。

交通政策は本来、現場を知っている人が語るべきものです(もっとも、交通政策に限らず、全ての政策に同じことが言えます)。住民ニーズ、地域の実情、事業者の苦労、これらを肌で感じている実務者にしか分からないことがあります。この「人間にしかできない部分」は、AIがどれほど進化しても代替不可能です。

AIは平気でウソをつく

「AIが答えた内容が実際には存在しなかった」という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。これは、AIが悪意をもってウソをついているわけではありません。限られたインプットで一生懸命答えを出そうとした結果、それらしい答えを「創作」してしまうのです。

ここで問うべきは、「そもそも適切なインプットを与えているか?」という点です。曖昧な指示で曖昧な答えが返ってくるのは、ある意味当然と言えます。計算機科学の分野では「Garbage in, garbage out=ゴミを入れたらゴミが出る」と言われるらしいですが、これはAI活用においても変わりません。

恐れる必要はない

とはいえ、AIを恐れる必要はありません。正しく使い、結果を正しく判断できれば、AIは優秀な右腕になります。

私たちの今までの業務環境の変化を振り返ってみましょう。かつては図書館や書庫での調べ物が当たり前、図面は手書きでした。それがワープロ・パソコンに変わり、その後インターネット検索が可能になりました。これがいわゆる「IT革命」です。そして今、AI革命が起きています。

道具は変わっても、それを使いこなす人間の力が問われる構図は変わりません。ワープロが登場したとき、「手書きの温かみが失われる」と危惧する声もあったようですが、今やパソコンなしの業務は考えられませんよね。AIも同じ流れにあります。今はまだ過渡期ですが、近い将来、「AIなしでは業務が出来ない」という時代が来るかも知れません。

AIを使うvs使わないで、格差が生まれる時代が来る

ただし、ここで認識すべきは、AIを正しく使える人、AIに踊らされる人、全く使わない人で歴然とした差が出るという現実です。

恐れて何も使わないより、AIを適度に使えば、議論の「たたき台」として圧倒的なクオリティの差が出ます(※個人の感想です)。この「たたき台」の質の差が、業務効率や成果物の質に直結する時代になっています。

AIに完璧を求めない+浮いた時間で「リアルの対話」を

AI回答だけで100点満点の成果を目指す必要はありませんし、50~60点程度で十分で、残りは自分の力で補うこととなります。ある程度AIとキャッチボールが出来るようになれば、圧倒的な知識量で度肝を抜かれる場面が出てくるでしょう。丸2日かかっていた資料作成の時間が、AI生成後の校正・手直しも含めてわずか1時間で出来た!なんてことも。

この効率化で生まれた時間を「リアルコミュニケーション」に振り替え、より充実した議論をすることこそが、本質的な価値創出につながるのではないでしょうか。

プロンプトの「コツ」=より具体的に指示する!

AIへの指示を「プロンプト」と言いますが、これは部下や後輩への資料作成依頼のスタンスに似ています。

何も考えずに「○○についてまとめておいて」とだけ、雑にぶん投げていないでしょうか? これでは期待した答えは返ってきません。

効果的なプロンプトには、例えば以下の要素を含めます:

  • あなたの立場:上司に説明する自治体担当者なのか、コンサルタント技術者としての技術提案なのか
  • 背景情報:なぜこの資料が必要なのか
  • 知っている情報:すでに分かっていること、前提条件
  • ほしい答え:おぼろげでも良いので、どういうアウトプットがほしいか

これらを投げるだけで、格段に精度が向上します。

交通政策・交通計画での具体的な適用場面

ここからは、実務における具体的な活用場面を見ていきましょう。

現況整理

上位計画や統計書データを読み込ませて整理することができます。「総合計画の交通関連部分を抜き出して」「人口統計から高齢化率の推移をまとめて」といった指示で、基礎資料の作成が効率化されます。

ただし、一般論は答えてくれますが、実情に合っているかは要チェックです。ちょっとした工夫ですが、例えば従前の地域交通計画を読み込ませることで、その地域特有の文脈を理解させ、精度を向上させることができます。

先進事例調査

ここは注意が必要な領域です。実は、生成AIはインターネットの横断検索が苦手で、ウソをつく場面が多いのです。

対策として、例えば以下を徹底してプロンプトに追記することが考えられます。

  • 必ず出典URLを示させること
  • 「行政機関・交通事業者等による明確な出典がなければ不明またはその内容は採用しない」という条件をプロンプトに付ける

この一文を加えるだけで、架空の事例を「創作」するリスクが大幅に減ります。

データ分析

ExcelやCSVデータを読み込ませて傾向を読み取らせることができます。「このバス路線の利用者数データから、曜日別・時間帯別の傾向を教えて」といった分析が可能です。

アンケートデータの分析も可能ですが、個人情報は絶対に読ませないでください。

分析報告書も吐き出せますが、クオリティはイマイチです。ただし、章立てや分析の視点は提案してくれるので、「どういう切り口で分析すればいいか」の参考になりますので、一度トライしてみてください。

課題抽出

分析結果を踏まえて、自治体が抱える交通課題を幅広く抽出することができます。壁打ち相手としてAIは優秀です。何回かキャッチボールをくり返していくと、より深みのある課題抽出が出来る「かも知れません」。しかし、AIに頼りすぎは禁物で、生成AIのアウトプットはそこそこにしておいて、あとは関係者とのディスカッションをしたほうがよほど有意義だと感じます。

ただし、課題感が現場の実情に合っているか検証は必須です。一般論的な課題に終始し、「高齢化が進んでいる」「公共交通利用者が減少している」といった、何の解決にもならない指摘に留まる場合もあります。

特に、地域のことを十分に知らない外部コンサルタントがAIを使用する場合は要注意です。最初のインプット—自らが見て聞いて得た情報をひたすらAIに与えること—が決定的に重要になります。(現場を知っていることが、ここでも差を生むことになります。)

施策提案(壁打ち)

当該地域・自治体にふさわしい、考えられる施策をひたすら列挙させることができます。ただし、何ら条件を与えなくても、それなりのアウトプットは出てくるものの、知ったかぶり感でそれらしい施策体系ができる程度なので、ここも要注意です。

壁打ちをするならば、一連の分析結果→課題抽出を踏まえてインプットし、「どのような町にしていきたいか」のイメージを伝えると効果的です。

悪い例: 「誰もが移動できるまちにふさわしい施策体系を考えて」 →一般論的な答えしか返ってこない!そもそも「誰もが移動できるまち」って何?

良い例: 「人口5万人の地方都市。中心市街地に商業施設と総合病院がある。高齢化率35%。市内全域から中心市街地まで30分以内でアクセスできる公共交通ネットワークを構築したい。施策の柱を3つ設定し、それぞれに具体的施策を5つずつ提案して」 →具体的な地域資源、目標、構成を明示することで、実務的な提案が得られます。

説明資料・利用促進・PR資料の作成

市民向けPR資料の作成も可能です。「新しいバス路線の利用促進チラシを作りたい。高齢者にも分かりやすく、A4一枚で」といった指示で、文案が得られます。ここでも、「何を訴求したいのか」という条件をしっかり与えることが重要です。

最近では、デザインまでしてくれるAIも登場しています。完成度の高いビジュアル資料のたたき台として活用できます。

出てきた答えの検証

AIが出した答えは、必ず検証してください。最近では、ファクトチェックをしてくれるAI機能もあるので、積極的に活用しましょう。

繰り返しになりますが、AI回答だけで100点満点を目指さないことです。50点程度で十分と考え、残りは人間の力で補います。

この効率化で生まれた時間を何に使うか—ここが最も重要です。住民との対話、事業者とのコミュニケーション、庁内の関係部署との調整。こうした「リアルコミュニケーション」にこそ、生まれた時間を振り替えるべきではないでしょうか。

交通計画は、データだけでは完結しません。現場の声、実情、温度感。これらを踏まえた計画こそが、実効性のある計画になります。AIで効率化した分、人間にしかできない部分に時間を使う—これが理想的なAI活用の姿だと考えます。

おわりに ~AIに負けず、人として更なる成長を目指す~

本稿では、筆者が見ている景色から「AIとの正しいかも知れない使い方」を述べてきました。

ただし、AIは毎日進化しています。本稿で述べたことも、半年後には状況が変わっているかもしれません。アンテナは常に立てながら、しかし現場感覚も忘れずに。このバランスが求められます。

最後に強調したいのは、「AIは道具である」という当たり前の事実です。道具である以上、使い手の力量が問われます。AIリテラシー、AI哲学をもった業務推進が、これからの交通政策実務者に求められる資質となるでしょう。

AIに振り回されるだけの人間になるのか、AIを正しく理解して使い「良き相棒」を得てより成長出来る人間になるのか。AIに負けない人間となるためには、AIに対して適切な問いかけをし、AIから出された結果を正しく受け止めるマインドが必要です。これって、人間同士のコミュニケーションでも一緒ですよね。

本稿が、皆さんの明日からの業務に少しでも役立てば幸いです。AIという強力な道具を手に、より良い地域の移動環境を創っていきましょう。

おまけ:どの生成AIがオススメ?【個人の感想です】

ここを読者の皆さんが一番知りたいのかも知れません(笑)。交通政策・交通計画の各業務場面において、どの生成AIツールが適しているかを【完全に個人の主観で】整理しました。それぞれのAIの特性を理解し、業務に応じて使い分けることで、より効果的な活用が可能になります。

もっとおまけ

薄々お気づきかも知れませんが、この文書(およそ5,000字)も、生成AIをぶん回して作っています。ただし、そのドラフトは筆者が2,000字ぐらい作文して、その内容をもとにAIで整え、さらに筆者が手で書き加える、という使い方をしております。使い方はそれぞれなので正解はありませんが、一つの参考にして下さい。

また、最後につけた各AIモデルの比較も、筆者個人の主観をもとに生成AIとやりとりして構成したものです。この内容を信じても責任は負えませんのでその旨ご承知ください(苦笑)。